Up or Outが当たり前?コンサル業界におけるキャリアパス
新卒で事業会社に就職した方だと、コンサルファーム特有のランク(職位)やプロモーション(昇進)という考え方は馴染みにくいものだと思います。
また最近は外資系や実力主義の色が強い会社などでは一部実施されるようにもなってきた「肩たたき(退職勧奨)」ですが、コンサルファームでは昔から“Up or Out(昇進するか、さもなくば去れ)”という言葉があり、事業会社からコンサルに転職を考えている方には不安を感じる方も多いと思います。
実際に昇進できなければ辞めさせられるようなことはあるのか、どの程度厳しい目で自分の能力を見られるのか・評価されるのかといったことは、事業会社の方からすると気になるのではないでしょうか。
今回はコンサルファームにおける一般的なランクや昇進、キャリアパスの考え方、“Up or Out”の実態を解説していきます。
コンサルのランクとそれぞれに求められる役割・能力

まずコンサルファームにおけるランクについて説明します。
ランクというとランキングをイメージする方もいいるかもしれませんが、コンサルファームにおけるランクとは、事業会社の職位や等級と同じようなものと捉えてください。
会社によって呼び方は異なりますが、コンサルタントにおけるランクは一般的にアナリスト、コンサルタント、マネージャー、パートナーという大きく4つに分かれており、ランクによって仕事の内容や求められる能力、責任の大きさなどが大きく変わります。
このサイトをご覧になっている方は恐らく若い方(20代~30代前半)が多いのではないかと思いますので、恐らくアナリスト~コンサルタントとして転職する方が多いのではないかと思います。もちろんコンサル業界は年功序列というよりは、どちらかと言うと実力主義が強い社会ですので、若い方でもコンサルタント以上の能力を持った方もいらっしゃるかと思いますが、未経験でコンサルファームに転職すると、アナリスト~コンサルタントあたりでの入社が多いです。
以下にそれぞれのランクのイメージと一般的な仕事内容を記載しますので参考にしていただければと思います。
調査・分析や議事録作成などの具体的な作業から雑務まで幅広く担うアナリスト

一般的には新卒~第二新卒くらいの方がこのランクに相当します(年齢にすると大卒で23~25,6歳、院卒で25~28,9歳)。
主な仕事内容としては、ワード、エクセル、パワポを使った作業系の仕事やクライアントとの打合せ日程の調整といった雑務系の仕事が多いです。
具体的には、プロジェクトの上司であるコンサルタントやマネジャーの助言を受けながら、必要なデータを収集して分析したり、クライアントへのインタビューの準備をしたり、議事録を作成したりといった内容です。
こう書くとあまりにも簡単な内容に見えますが、コンサルファームでは議事録一つ書くにもかなり気を使います。
基本的に上司は全員ロジカルシンキングが出来る前提ですし、ロジックツリーやMECE、ピラミッドストラクチャーなどといったコンサル特有の整理法をマスターしているので、コンサル未経験者が作った議事録を提出すると「言っている意味が全くわからない」「結論が見えない」「構造化されていない」、挙句の果てには「そもそも日本語になっていない」などと先輩コンサルからボコボコに言われます。よく言われることですが、未経験で入社した最初の頃は、議事録のレビューを受けると真っ赤になって返ってきます。
また作業の進め方や内容についても自分自身で仮説を立てて進めることが求められます。事業会社の新人であれば上司から指示を受けて仕事を進めることが多いと思いますが、新人であっても仮説思考で、どのように作業を進めればプロジェクトを円滑かつ効率的に進めていくことが出来るかを常に考える必要があります。
クライアントとの日程調整も実は馬鹿にできない仕事です。
特に組織改革系を伴う大規模プロジェクトなどでは、それぞれのキーマンがどういう人物で、どういうことを気にしているのかをインタビューを通じて理解していく必要があり、打合せの順番が実は重要だったりもするのです。
分析・提案における示唆出しや成果物の構想策定、チームの作業設計まで担うコンサルタント

事業会社では、入社3,4年目の平社員~主任・係長などの役職に相当するランクです。ファームによってはコンサルタントとシニアコンサルタントに分かれている場合もありますが、プロジェクトをデリバリー(=推進)する要であり、現場リーダーといったイメージを持っていただくと良いでしょう。
主な仕事内容としては、アナリストが行った分析の結果に対する示唆出しや提案骨子の策定、プロジェクト成果物の構想策定など、アナリストより一段高い能力が求められます。現場のリーダーとしてクライアントにどのようなメッセージを伝えるか、どのようなストーリーで提案するかといった骨子を考えることが求められます。
またチームの作業設計を担うのもコンサルタントです。
どのような成果物を、いつまでに作成するのか、そのためにクライアントとの打合せやインタビューを誰に対して何回実施するのか、その前に内部でのディスカッションをどのようなタイミングで実施するのかなどをロジカルに考えていくことが求められます。
そのため、どの作業にどれくらいの時間がかかるかという工数の見積もりができることが前提となります(普通はアナリストの間に鍛えられることが一般的です)。もちろんプロジェクトにアナリストがいれば、成果物のレビューをするなどの部下育成の役割も出てきますので、アナリストの力量を見据えたタスク・スケジュールの設計が必要です。
この作業設計をするという仕事は結構重要で、将来的にプロジェクトマネジャーとしてプロジェクト全体のデザインをするためのトレーニングも兼ねています。
またクライアントのオフィスに常駐している場合は、日常的なクライアントとのコミュニケーション全般については任されること多いですし、ミーティングマネジメントやプレゼンテーション、小規模なミーティングでのファシリテーションなども行うことが多いです。
そのためコンサルタントには、相手を不快にさせないコミュニケーションはもちろんのこと、物事を整理して論理的にわかりやすく説明する力や、ホワイトボードの前に立って場をリードする力といった、ある程度のコミュニケーション能力も必要となってきます。
クライアントの期待値コントロール・プロジェクト品質管理や営業を行うマネジャー

事業会社では、課長~部長に相当するランクで一般的には管理職層です。マネジャーとシニアマネジャーに分けているコンサルファームもあります。
マネジャーの役割は大きく2つあって、一つはプロジェクトの責任者(プロジェクトマネジャー)としてプロジェクトを適正にマネジメントすることです。
簡単に言えばプロジェクトのスケジュールや予算、品質などを管理することで、例えばプロジェクトが遅延しないよう常にプロジェクトの進捗を管理し、課題があればすぐに解消に動くことが求められます。
当然ながらクライアントへ提出する成果物の品質を担保することも求められます。コンサルタントやアナリストが作成した成果物の品質が低いとマネジャーが自分で手を動かして成果物の品質を高めなければならない場合もありますが、こうなってしまうとプロジェクトとしては失敗の一歩手前です。マネジャーレベルが作業者になってしまうと視座の高い成果物を出すことや提案がしにくくなってしまいます。
ミーティングにおいても基本的には全てのファシリテーション、プレゼンテーション、ディスカッションにおいてリードしながら、その場をまとめきるという責任・役割が求められます。
またプロジェクトマネジメントする上では部下の評価も行います。コンサルファームでは、事業会社のように半期に1回といった頻度ではなく、プロジェクト単位で評価されることが一般的です。
加えて、似たようなプロジェクトはあっても、全く同じプロジェクトは存在しないため、クライアントやプロジェクトテーマの難易度、プロジェクトメンバーの力量やそのプロジェクトで各メンバーが担う役割など、様々な要因を踏まえて評価をしていくことになります。
プロジェクトでの評価が悪いと、コンサルタントやアナリストはアベイラブルといってプロジェクトが終わって仕事がなくなった際、次のプロジェクトにアサインされにくくなります。アサインされずにアベイラブル期間が長くなると、そのコンサルタントのキャリアにも影響します。そのためプロマネの評価責任は重大なのです。
もう一つの役割としては、営業・マーケティング活動に関与することです。
コンサルファームとしては、将来ファームを背負っていくパートナーの候補として、そのマネジャーに専門領域を持たせて、名前を売ろうとします。そのためマネジャーには、セミナーや書籍の執筆、業界雑誌への記事の寄稿などを行う機会がよくありますし、自分自身が生き残っていくためにもそういった機会を積極的に作ることが求められます。
また当然ながら既存クライアントに対するプロジェクトの継続提案なども責任をもって行いますし、それだけでなく新規クライアントから引き合いがあった際の提案対応も行います。
そのためコンサルタントのようにじっくりと考えて整理して提案するというよりも、“その時”、“その場において”、いかにクライアントに刺さるコメントが出来るかという点が大切になってくるため、本質を捉える洞察力や頭の回転スピード、物事を様々な側面から立体的に捉える力が必要となってきます。
プロジェクトの全責任やファームの経営責任まで負うパートナー・ディレクター

事業会社の役職で言うと事業部長~役員に相当するランクです。基本的にパートナー(プリンシパルという呼び方をするファームもありますが)は共同経営者であり、全員執行役員であるということも多いです。
パートナーとしての仕事は大きく2つあって、一つはプロジェクトの全責任をとるということです。
パートナークラスになると、1つのプロジェクトにかける時間はコンサルタントやマネジャーと比較すると少なくなることが多いですが(ファームによってはパートナーが年間数件のプロジェクトにコミットするところもありますが)、プロジェクトにおいて何か問題があった場合にはパートナーの責任のもと、問題を解消することになります。
プロジェクトに関与する時間がほとんど無い中で、価値を発揮するというのは非常に難しく、プロジェクトによっては(パートナーの力量によっては、かもしれませんが)パートナーがいるのかいないのか分からないというものもあります。
パートナーとしての仕事の2つ目は組織運営です。
自分が管掌する組織ユニットのPL責任を持ち、自組織がビジネスを継続できるようにしていくことが求められます。当然ビジネスを拡大していくためには、組織に所属するメンバーの採用や育成にもコミットする必要がありますし、ユニット内の基本的なルールを決めるのもパートナーの役割です。
逆に食えなくなった組織ユニットは悲惨で、チームが解体されることはもちろんのこと、パートナーもクビになる、という話を聞いたことがあります。昨今ではコンサル業界はとても景気が良いので、業績が悪くてクビになるようなパートナーを実際には見たことは無いですが。
一方で、パートナーは“あがり”ポジションだと言われているファームも存在するようです。パートナーになる際に、自社への出資を義務付けているファームもあり、そういったファームでは退職に際してパートナー全員の同意が必要であったりするなど手続きも煩雑で、実際には簡単にクビにはならないと。
とは言え、自分自身でパートナーを経験していないので何とも言えないです。もしかしたらここに記載した以上のことがあるのかもしれませんが、下から見ていると上記のような話を聞いたり、イメージを持っています。
コンサルファームのキャリアパス・昇進の考え方と“Up or Out”の実態

さて、ここまでコンサルファームにおける一般的なランクと、それぞれの業務や役割、求められる能力をまとめてきました。
ここからは、コンサルファームにおけるキャリアパスや昇進の仕方を説明しながら“Up or Out”の実態について記載していこうと思います。
まず既にランクの説明をした時点でお気づきの方もいると思いますが、基本的にコンサルのキャリアパスは、アナリスト → コンサルタント → マネジャー → パートナーという完全な単線型のキャリアパスとなっています。コンサルファーム側も、入社したからには将来的にはパートナーになってもらう・目指してもらうことを前提としています。
※稀ですが、途中でコーポレート部門に異動するようなケースもあります。
昇進の仕方はコンサルファームによって異なりますが、それぞれのランクに必要となる能力要件が定義されており、各ランクに平均的に留まるであろう年数を設定していることが多いように感じます。
外資系のファームの場合は、日本のコンサル市場の将来性やグローバルでの業績状況に鑑みて、昇進数に上限を設定していることもあります。
では、単線型のキャリアパスが前提のコンサルファームにおいて、平均的だと言われている滞留年数を過ぎた場合どうなるでしょうか。
上司のパートナーやマネジャーから目標設定や評価・フィードバックなどのタイミングでそれとなく退職という選択肢について言及される(その意見を踏まえて自分で辞めるか否か決める)、もしくは徐々にプロジェクトにアサインされなくなり、その状況に耐えられなくなって自分から辞める、ということになります。
ただ、上記はあくまでも昇進できずに何年か滞留するようなケースです。
一度昇進できなかったからといって、すぐ退職するということはあまり無いですし、まして昇進できないことを理由に会社から退職を迫られるということは、あまり無いのではないかと感じています。
逆にそこまで年数が経つ前に、日々の業務上のフィードバックやレビューを通じて「自分はコンサルに向いていないのでは」と考えて、自主的に退職という選択肢を選ぶ方も一定数います。
公式には、“Up or Out”という文化は業界全体的に少なくなっていると思いますが、コンサルに入社する方にはまだまだ「コンサルは“Up or Out”であるべき」という考え方を持っている人が多く、自分がパフォーマンスしていないと感じると自然と「辞めた方が良いのでは」と自ら引き際を設定しているように見えます。
コンサルファームの平均勤続年数とよくある退職理由

それではコンサルの退職理由にはどのようなものがあるのでしょうか。
コンサル業界の平均勤続年数は諸説あり、インターネットで検索すると3年程度というところもあれば、4~6年程度としているところもあり、これを長いと見るか短いと見るかは人それぞれだと思います。
実際に働いている身で感じることとしては、コンサルが退職するタイミングは大きく3つくらいに分かれます。
① 入社1年未満:
事業会社にコンサル未経験で転職、もしくは新卒で入社し、入社前に抱いていたイメージと違った(例えば意外と地味な仕事もある等)、能力・スキル面や働き方の面でついていけなかったというタイプです。
実はこのタイプはあまり多くは無く、コンサルファーム側も一定の採用費用をかけてとっているのでそれなりに育成しますし、採用段階であまりにもレベルが合わない人は落とされているという印象を受けます。
② 入社3年~4年程度:
1度目の昇進タイミングが来たものの、様々な理由から昇進が出来ず、結果的に転職することを選択するネガティブなタイプと、コンサルとしていくつかプロジェクトを経験したものの、これまでとは異なるテーマのプロジェクトを経験したい、といったポジティブなタイプの2つに分かれます。
主観ですが、このくらいの年次で辞める方は多いように感じます。そのうちネガティブな理由で辞めるタイプは半分にも満たないようなイメージです。
③ 入社5年以上:
5年以上コンサルを続けている方は、自身にとってもコンサルという働き方や仕事内容に一定満足していて、順調にいけば1, 2回の昇進をしていることが多いです。
こういうタイプが辞める場合は、コンサルという仕事よりもやりたいことがあるということが多いように感じます。退職後のキャリアパスも多岐に渡るイメージです。
長年コンサルファームで働いてきて、それなりに苦労してプロジェクトマネジャーにもなった身からすると、コンサルに本当に向いていない人というのは、いないことはないけど、そんなに多くはないという印象です。
ポストコンサルタントとして考えられる代表的な6つのキャリアパス

“ポストコンサル”という言葉を聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれませんんが、コンサルとして何年か勤務した後、コンサルを卒業して別の仕事をするという方も非常に多いです。
既に卒業したOB/OGや周囲の知人の話を聞いていると、一般的には以下のようなキャリアパスが考えられます。
- スタートアップの経営層
- ベンチャー/メガベンチャー企業の企画系ポジション
- 上場企業の企画系ポジション
- 投資ファンド
- 他コンサルファームの横/斜め上スライド
- 起業・独立
こちらはそれぞれ説明するのに時間もかかるため、また別で詳しく説明しますので参考にしてみてください。
今回は以上となりますが、コンサルファームにおけるランクの考え方やキャリアパスについて理解いただけたでしょうか。事業会社から未経験でコンサルファームへの転職を考えている方は、コンサルとしていつまで働くのか、どのランクまで目指すのか、というイメージを少しでも持っておくと良いと思います。